「プリオン説はほんとうか?」を読んで、BSE問題を再考する
●BSE問題
僕ら世代だと懐かしく聞こえる響きなのかもしれない。
2001年頃に日本でも大きな社会問題になった。
今の若者は知らない人も多いかもしれないが、各牛丼チェーンに最初から豚丼がメニューにあったわけではない。
この事件をきっかけにメニューに登場したのだ。
今ではすっかりレギュラーメニューとなっている。
さて、そんな一大社会問題となったBSEだが、そういえば最近すっかり聞かなくなった。
いつの日か吉野家にも牛丼が復活し、世間の皆さんは忘れているかもしれない。
事実、自分もすっかり忘れていた。
そんな時、たまたま「BOOK OFF」さんで面白い本がないか物色していたら、見つけた本がこれだ
●「プリオン説はほんとうか?」 福岡伸一
最近よく読む、分子生物学者 福岡先生の本。
ついつい気になって購入してしまった。
2005年の著書なので、もうかれこれ14年も前の著作になる。
当然、この14年の間に科学は進歩し、BSEに関する知見も増えたのだろうが、あえて、この古い著作を読んでみたくなった。
それは、BSE問題が発生した当時、自分も
「牛丼が食べれなくなる」
くらいにしか考えておらず、基礎的な知識がなかったからである。
とりあえず、この問題を当時の最新科学はどう見ていたのか?
それを知りたくなったのである。
●ノーベル賞学者への挑戦
本の題名にあるプリオン説とは、狂牛病の原因となる病原体をプリオンというタンパク質とする説である。
この説を唱えたプルシナーはノーベル賞を受賞した。
何も知らない私たち一般人が聞けば、
「へぇー、タンパク質が原因なんだ」
と思うだけかもしれないが、医学や生物学の世界の人にとってはそれはとてつもなくセンセーショナルなことだったはずだ。
だって、病気の原因がタンパク質ですよ
よく考えたら「え?!」って思います。
普通、病気は細菌やウィルスが原因で引き起こされます。
それが、ただのタンパク質が原因だなんて・・・。
本ではまず、この「プリオン説」を裏付けるエビデンスについて説明しています。
うんうん、なるほど。それなりに納得させられるデータです。
しかし、福岡先生はここから猛反撃にでるわけです。
あろうことか、ノーベル賞学者に対して・・・
福岡先生は、プリオン説の弱点をつき、自らが考える代案をだします。
それが、
「レセプター仮説」
狂牛病を引き起こすのは、あくまで未知のウィルスであると
そしてそのウィルスが猛威をふるった結果が異常型プリオンタンパク質であると推測しています。
ここで重要なのは、その内容ではなく、ノーベル賞という最高の権威に対しても科学は反証可能だということでしょう。
人間社会ではこういう事は意外と難しい。
権威のある人(会社であれば社長)が放った言葉は「絶対」となりがちだ。
反証の余地があったとしてもそれが許される空気にはならない。
宗教などはその最たる例であろう。
教祖の放った言葉は絶対なのである。
ただ、科学は違う
科学は、「科学絶対主義」などと批判されることがあるが、それは違うと思う。
科学は絶対ではないからこそここまで進化してきたのではないだろうか?
それがどんなに偉い学者が唱えた学説であろうが、正しく論理的であれば反証可能なのである。
自分も少なからず実験データを取り扱う身である為、この本を読んで、常に真実は何かを自分の中で反証しながらデータを視なければいけないと痛感した。